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普通取引約款(ふつうとりひきやっかん)とは、企業などが不特定多数の利用者との契約を定型的に処理するためにあらかじめ作成した契約条項のことである。単に約款ともいう。

 

保険契約、不動産取引、銀行取引、コンピュータソフトウェアの購入などにおいて提示される契約書やパッケージに印刷された契約条項が普通取引約款の例である。またこのような意識的に契約を行う場面以外でも、鉄道、タクシー、ポイントサービスなどにも約款が利用されており、日常生活のさまざまな場面で無意識のうちに接している。

 

普通取引約款を用いるメリットは、大量の取引を定型的・画一的に扱うことで迅速に処理することができる。その一方で約款は企業側の都合によって作られているものであるから、契約者が一般消費者である場合には交渉力の差が歴然であり、契約するか否かの選択肢しか与えられず交渉の余地がない(同じ契約であっても大企業同士であれば値引き交渉などもあり得る)。また、契約者が一般人である場合には約款の内容を熟知しないのが通常であり、同意した覚えがない条項によって権利義務が確定されてしまうのも問題である。

 

日本において約款の法的拘束力が社会問題となったのは関東大震災のときである。この震災では地震によって生じた火災の被害が大きかったが、多くの人は火災保険に加入していればその損害が補填されるものと思っていた。しかし火災保険契約に使われる約款では地震による火災は保険の対象外とする旨が記載された地震損害免責条項があったため、多くの被災者が保険金を受け取ることができなかった。これを不当として保険金の支払を求める訴訟がいくつもおこされたが、そのすべてにおいて保険会社が勝訴し、保険金が支払われることは無かった。同様の問題は阪神・淡路大震災においても生じた。

 

法律学上、約款の有用性と合法性を前提としながらも、本人が合意していない条項によって法的に拘束されるのはなぜかという点で大きな論争が起きた。裁判所は、約款に則って契約することが記された書面にサインや押印したことから約款に拘束される意思があったと推定する立場をとっている。その後も論争は続いているが、民法(や他の法令)中の任意規定に照らして約款の条項が合理的であれば有効であるという裁判例が出てからは、約款それ自体の法的拘束力の問題に関する結論は棚上げにされ、各条項の有効性に学説の関心は移った。

(フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より

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